「社員の給与を上げないと企業はどうなるか」については、短期と長期で影響が異なります。
■1. 短期的な影響
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コストは抑えられる
→ 直近の利益は確保しやすい。 |
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社員の生活水準は現状維持
→ 社員は「まあ仕方ない」と受け止めるケースもある。 |
ただし、同業他社や市場平均より低ければ、不満が蓄積し始める。
■2. 中長期的な影響
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(1) 離職率の上昇
優秀な人材ほど市場価値が高く、給与の高い他社に流出。
採用・教育コストが増え、人材が定着しない「負のスパイラル」に陥る。 |
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(2) 採用力の低下
求人市場で「給与が上がらない会社」というレッテルがつく。
優秀人材を採用できず、企業全体の競争力が落ちる。 |
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(3) モチベーション低下・生産性悪化
給与が評価されないと「頑張っても報われない」と感じ、働きぶりが落ちる。
不正やサボタージュも増えやすい(効率賃金理論の逆作用)。 |
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(4) ブランドイメージの低下
社員の口コミ(転職サイト、SNSなど)で「待遇が悪い企業」という情報が広がる。
顧客や投資家の評価にも悪影響を与える。 |
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(5) イノベーション停滞
優秀な人材が抜け、残るのは消極的な人材ばかりになりがち。
新しい挑戦や改善活動が減り、長期的な業績悪化につながる。 |
■3. 経済的な証明的整理
一人当たり利益 U(w)=RPL-w-C(s(w))において、給与を上げないとw は一定だが、離職率s が上昇し、離職コストC(s)が大きくなる
その結果、給与を据え置いたつもりが、長期的には利益がむしろ減少する。
■4. 具体的な実例
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日本の地方中小企業
昇給をほとんどせずに人材が流出し、結果的に慢性的な人手不足に陥る。 |
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米国のWalmart初期
低賃金政策で離職率が高騰し、教育コストが大きく利益を圧迫 → 近年は待遇改善にシフト。 |
■まとめ
給与を上げない企業は、短期的にはコストを抑えられても、長期的には「人材流出・採用難・生産性低下・ブランド低下」により競争力を失い、業績悪化に向かう可能性が高い、ということが経済学的にも実証研究的にも言えます。
■賃上げシミュレーション
■累積利益(0〜10年):
▼賃上げなし:約 6.55 億円
▼毎年3%賃上げ:約 7.10 億円(+約 0.55 億円)
■10年目の単年利益:
▼賃上げなし:約 6.19 億円(利益率 50.53%)
▼毎年3%賃上げ:約 6.99 億円(利益率 46.41%)
■平均離職率(年):
▼賃上げなし:17.48%
▼毎年3%賃上げ:13.96%(採用コストも約 3.1 千万円低下) |